事業会社とベンダーそれぞれの立場から考えるマーケティング組織立ち上げ期の課題とその解決策とは?【古庄拓氏×黒澤友貴氏 対談前編】
目次
BtoBビジネスにおいて、マーケティング組織の立ち上げ期には課題が多いものです。今回は『マーケティング組織の立ち上げ期における課題』をテーマに、教育研修事業と採用・就職支援事業を展開する【株式会社ジェイック 取締役 マーケティング開発本部長 古庄 拓氏】と組織の立ち上げ支援を手掛ける【ブランディングテクノロジー株式会社 執行役員 CMO 黒澤 友貴氏】が対談。事業者目線・ベンダー目線から、マーケティング組織の立ち上げについて語っていただきました。
【後編はこちら】ジャーニーを動かすマーケターの育成方法とは?スキルマップで個々の特性を見極める
マーケティング組織立ち上げ時の課題は、パートナー選びや営業部門とのコミュニケーション
司会:
まずお伺いしたいのが、マーケティング組織を立ち上げる際の課題です。古庄さんは2021年にマーケティング開発本部長に就任されていますが、マーケティング組織立ち上げ期にどのような課題を感じてましたか?
古庄:
最近のSaaSスタートアップさんなどの場合、ベンチャーキャピタルさん等から資金調達されて、あらかじめ営業・インサイドセールス・マーケティングと分割してからスタートされることが多いと思います。一方で、昔から事業を展開されている企業では、営業職中心の組織が成長していくなかで、少し器用な営業担当の兼任で始めるような形でマーケティング機能を立ち上げていくケースも多いのではないでしょうか。弊社もそうでした。なのでマーケティングの知識がなく、試行錯誤しながらで、今振り返ると、効率が悪かったですね。
黒澤:
どのような点で試行錯誤をされたのですか?
古庄:
本当に多々ありますが、そのひとつがパートナー選びだと思います。当時は知識がないので、どうパートナーを選んだら良いのか、どんなパートナーが最適なのかがわかりませんでした。結果的にパートナー選びで失敗して時間をロスした部分もあると感じます。
黒澤:
弊社が支援している企業でもパートナー選びに苦戦しているところは多いです。さらに悪いパターンとして多いのが、パートナー頼みに陥っているケースです。マーケターが伝書鳩のように経営者とパートナーの間に入るだけですと、何が重要なのかがわからないまま代理店やコンサルに依頼して、上がってくる数字に右往左往することになります。
古庄:
なるほど。
黒澤:
本来は、インハウス(社内)の担当者で上流の戦略やセグメントの優先順位を決めてから依頼するべきなのですが、そこからパートナーに投げてしまうケースが多い。弊社が立ち上げをサポートさせていただく場合は、インハウスの担当者とパートナーとの役割分担を明確にすることから始めます。
古庄:
インハウスの担当者は社内にいるからこそ、できることを考えるのが大事ですよね。
黒澤:
そうですね。先ほど伝書鳩という例えを使いましたが、インハウスにとって営業・経営者・パートナーとの「調整」は重要です。
ただし、それ以前にまずインハウスでやるべきは、経営・事業戦略の部分です。PL目標などに対してマーケティングがどのような役割を果たすのか、その点をしっかり考えられる人材を社内で育てるべきですね。
古庄:
弊社の場合、当初はノウハウ不足でそうした戦略・戦術のないまま動いていた部分も多かったですね。戦略・戦術を描こうとする場合、どう進めるのが良いでしょう?
黒澤:
まず顧客理解を徹底して深める必要がありますね。ただし古庄さんのケースのように、営業担当がマーケティング担当に異動する場合は、すでに顧客理解ができているのでうまくいくことが多いです。
一方で、マーケティング担当者が営業経験者でない場合は、トップ営業の方にマーケティング組織の立ち上げを手伝ってもらうと良いと思います。なぜなら営業で成果を出している方は、顧客の動かし方や競合との差別化についてなど、マーケティング戦略のヒントとなるノウハウを持っているからです。
弊社で立ち上げ支援をする場合は、まずマーケターに営業同行や営業からのロープレを体験してもらった上で、営業のノウハウをマーケティングのチャネルでどう使うか言語化・体系化していきます。その段階でフレームワークを使うと整理しやすいですね。
古庄:
STP分析などフレームワークを使って、顧客や商品理解を言語化することは、プロモーションをやっていく上で非常に重要ですよね。
黒澤:
フレームワークの前に、戦略のステートメント部分を5W1Hや2Hのレベルで言語化して、関係部署と擦り合わせるとさらに良いですね。この初期設定の部分はかなり大事です。
古庄:
初期設定や共通理解を固めた上で、どういうチャネルでどうプロモーションをしていくか、という話に広げていかないと、バラけてしまいますよね。
黒澤:
プロモーションは量をやるのも大切ですが、初期設定を最低限やってから動いたほうが効果の質は上がると思います。
潜在顧客へのリーチを始める際に、インサイドセールスを立ち上げ仕組みを作る
司会:
営業と共通言語で初期設定をしてからプロモーションを行うと良いというお話が出ましたが、具体的に古庄さんはどのような取り組みをされたのでしょう?
古庄:
弊社の場合、マーケティングは顕在顧客へのリーチから始めました。まずはハウスリストへのメール配信とリスティング広告などで、“今すぐ”ニーズの顧客に反応していただく。立ち上げとしては王道だと思いますが、一方で、顕在顧客へのアプローチは、ある程度早々に行き詰まりますよね。その流れで、潜在層にリーチしていくことになったのですが…。
黒澤:
顕在層から潜在層へアプローチ先を移行すると営業効率が悪くなるので、営業サイドとのハレーションが生まれてきますね。皆さんよく苦戦されるところです。
古庄:
今月や今四半期の売上目標にコミットしている営業と、中長期的な視点も持ちながらリード獲得しているマーケティングで噛み合わない。これは自然なことだと思います(笑
黒澤:
営業部門とマーケティング部門って絶対ぶつかるじゃないですか(笑)。ですが、「2部門だけで議論をするからケンカする」のが、僕が最近出した見解です。なので、どのタイミングで顕在層から潜在層へアプローチするターゲットセグメントを変えていくかについては、経営者や経営企画などの第三者が関わりながら決めるのが有効だと感じています。組織規模が大きい会社であれば経営企画部の方などに議論に入ってもらい、組織全体で合意形成をしてから動くのが重要です。
古庄:
おっしゃる通りです。あとは、仕組みで解決していくうえでは、潜在層に入っていくタイミングでインサイドセールスを立ち上げていくことも、営業部門とマーケティング部門のハレーションを解消する上で有効だなと考えています。
黒澤:
古庄さんはインサイドセールスの組織を、どう作られたんですか? フィールドセールス経験者をインサイドセールスに異動させたのですか?
古庄:
フィールドセールスから異動した人と、アシスタント的なところから異動した人などを交えて作りました。一番はじめにインサイドセールス的な分業を立ち上げたのは、2006年ですかね。インサイドセールスの概念が一般的ではなかった頃ですので、手探りでしたね。
黒澤:
弊社の場合は、最初はインサイドセールスの組織をマーケティング部門内に持ち、成果が出る一連の流れをつくった上で営業部門に移管しました。チームに誰をアサインするのか、マーケティングと営業のどちらの部門でやるのか、またその判断を誰がするのかが難しいかなと思います。
古庄:
トップセールスに近い人をアサインするのが良いと言われたりしますが、現実的には難しいですよね。
黒澤:
なかなかできないですね。弊社が支援する際には、支援先の事業責任者の立場となる方に、インサイドセールスとマーケティングの役割と意味を僕自身が説明しに行きます。まずそれをしないと話が進みませんね。
ユーザーインタビューで成約の要因を精査し、共有する
司会:
マーケティングから送客されるリードの質は良いのに、インサイドセールスの担当者の力が弱くて成約に至らないケースもよく聞きますが、効果的な改善策はありますでしょうか?
黒澤:
絶対にやった方が良いのは、月次で営業とマーケティングの両方の担当者が集まって、成約できた顧客とできなかった顧客の両方の精査をすることですね。プロセスや成約要因などを共有する場を設けると良いと思います。
他にもルールに落とし込める手法としては、その月の成約顧客を営業とマーケティングで取材(ユーザーインタビュー)することです。また、成約できなかった顧客については敗因を分析して、マーケティングと営業のどちらのアプローチに問題があったのか、仮説を立てると良いでしょう。…そこでぶつかるケースもあるんですけどね(笑)。
古庄:
「この状態では成約できない」「成約まで持っていくの営業力だろ!」みたいな他責でのぶつかり合いですね(笑)
黒澤:
でもプロセスを可視化してカスタマージャーニーに落とし込み、営業部門とマーケティング部門の共通言語にして対話をしていくと、とても効果があります。
古庄:
すごく大事ですよね。最終的に両者の見解が擦り合うかは別として、マーケティングやインサイドセールスのメンバーに生の顧客情報が入っていくと、施策や取り組みの精度が変わってきますよね。
黒澤:
営業とマーケティングそれそれで振り返りをやっている企業は多いと思いますが、部門横断で振り返る場を作るのが大事ですね。それはこの記事を読んでいる皆さんも感じているのではないでしょうか。
古庄:
いまだとオンライン商談やIP電話が普及して、録音や動画などでデータ化しやすく、情報共有もしやすい時代になってきましたよね。10年前だと、関係者全員を集めて1時間MTGをするのはとても大変でしたが、今はデータとして簡単に蓄積して共有することができます。
黒澤:
ユーザーインタビューと、インサイドセールスで得たデータや商談のデータを集約して、マーケティング施策の重要成功要因を整理するのも良いですね。これは実際にやるとすごくパワフル。あとはやるかやらないか。そこの優先度を上げるかどうかですね。
司会:
立ち上げ期のリアルな悩みに対しての対策を伺うことができ、とても興味深かったです。特にパートナー選びについては自分も伝書鳩になっていないだろうか?と考えさせられました。後編では、古庄さんと黒澤さんに、優秀なマーケターの育成ポイントについてお伺いします。マーケティング管理職の方は必読の内容となっております。是非お楽しみに!
【後編】ジャーニーを動かすマーケターの育成方法とは?スキルマップで個々の特性を見極める
【株式会社ジェイック 取締役 マーケティング開発本部長 古庄 拓氏】と【ブランディングテクノロジー株式会社 執行役員 CMO 黒澤 友貴氏】が、後編ではマーケティング組織における人材育成のポイントやその手法をテーマに対談。
株式会社ジェイック 取締役
マーケティング開発本部長
古庄 拓
Web業界・経営コンサルティング業界の採用支援からキャリアを開始。その後、マーケティング、自社採用、経営企画、社員研修の商品企画、採用後のオンボーディング支援、大学キャリアセンターとの連携、リーダー研修事業、新卒採用事業など、複数のサービスや事業の立上げ等も担当し、現在に至る。専門は新卒および中途採用、マーケティング、学習理論。採用と社員教育の情報を発信するメディア「HRドクター」の編集長。
企業HP:https://www.jaic-g.com/
Twitter:https://twitter.com/tfurusyo/
ブランディングテクノロジー株式会社
執行役員 経営戦略室CMO
黒澤 友貴
1988年生まれ。「日本全体のマーケティングリテラシーを底上げする」をミッションに10,000人近くのマーケターが集まる学習コミュニティ#マーケティングトレースを主宰。2020年2月に書籍「マーケティング思考力トレーニング」(フォレスト出版)を上梓。
企業HP:https://www.branding-t.co.jp/
note:https://note.mu/tomokikurosawa
Twitter:https://twitter.com/KurosawaTomoki