成功する新規事業は立ち上げ期の人事採用と顧客理解がポイント!【山中思温氏×栗原康太氏 対談前編】

成功する新規事業は立ち上げ期の人事採用と顧客理解がポイント!【山中思温氏×栗原康太氏 対談前編】

新規事業立ち上げにおいてリサーチを通じた顧客理解は大切です。
今回は、市場調査を通じた大手企業の新規事業支援の経験が豊富な【株式会社まーけっち 代表取締役 山中 思温氏】と、新規事業のBtoBマーケティング支援を行う【株式会社才流 代表取締役社長 栗原 康太氏】が対談。新規事業立ち上げ期に起こりやすい人材の問題や顧客理解のアプローチ方法について、事例を交えながらお話いただきます。


【後編はこちら】新規事業立ち上げ期における効果的なマーケティング施策とは?

隠れた事業目的を掘り起こし、関係者各位の意思を統一してから事業を始める

司会:
まずお伺いしたいのは、大手企業が新規事業を成功させる上で、押さえるべきポイントについてです。

栗原:
これはいろんな観点というか、それぞれのフェーズがあると思いますが、新規事業を成功させようとする前提自体が、成功確率が低い取り組みであることを理解する必要があります。そもそも世の中に、次々と新規事業の立ち上げに成功している会社はほとんど存在しません。Googleでも社内の新規事業で成功しているのはGmailと広告ぐらいだと言われています。


山中:
そうですよね。でも、新規事業を立ち上げようとする企業って一定数いますよね。


栗原:
「企業を一段階成長させるには、新規事業の立ち上げが必要だ」という発想から出てくるのだと思います。ですが、現実はそう上手くは行かないもの。あるコンサル会社が、大手企業の新規事業について調査を行ったところ、アイデア段階から黒字化に至るのは全体の7%、さらに会社の主力事業になる確率は4%と言う結果が出ています。


山中:
なるほど。誤解を恐れずに言うと、そもそも、新規事業の成功基準や目的が明確でないケースが大手企業ほど多いと感じています。なぜ大手に多い傾向かというと、スタートアップだと、身銭を切っていたり、自分の名前で資金調達や融資の個人補償がついていたりと、責任の所在が分かりやすく生々しいです。良い意味でヒリヒリ感がある。逆に大手で会社の看板で、大きな労力なしに予算が貰えると、当然、当事者意識は高まりにくいです。勿論大きな責任を担うのは変わらないですが、自分のお金や個人の信頼をフルに使った場合とそうでない場合、明確に意思決定のこだわりに差が出るなとは、自分も貯金1000万を全て使ってみた経験がありますし、その後もいろいろな事業家を見ていて気付きました。

弊社が支援に入る大手企業でも「既存事業の利益が減っているから自社のリソースを活用して新たに利益を出したい」といったことをおっしゃる一方で、「採用のために、新規事業に挑戦している面白い企業だというイメージを作りたい」といった隠れた目的があることも意外と多いんです。

ですから「この新規事業の目的はブランディング。新規の技術的な取り組みで成果を上げて業界の知名度で〇番以内を取ること。利益は赤字にならなければ良い」となり、KPIにメディアの掲載等も追加され、波及効果として、「採用時の応募意向を〇%に引き上げる」と明確に決めたうえで、各ステークホルダーでの認識にブレがないよう意思を統一してから始めないと、後から色々なところから「いやそうじゃない」という意見が噴出してきて立ち行かなくなります。

結局小さくまとめるしか無くなってしまうケースを私は多く見てきました。特に、定性的なところを明確にできておらず、後から定量の部分の「収益が出なさそう、でもいくら儲かれば良いんだっけ?」とブレブレになって迷走するPJを沢山見てきました。


栗原:
そうですよね。もし「新たに利益を創出する事業を作りたい」という目的であれば、ちゃんと「経験豊富な人」が「経験豊富な領域」でやった方が良いと言うデータもあります。

業界や顧客への理解が深いドメインエキスパートを採用する

司会:
市場経験もマネジメント経験も豊富な人材を見つけるのはなかなか難しいと思うのですが、どうでしょうか。


栗原:
事業ドメインの知識と、事業立ち上げスキルの両方を兼ね備えている人は珍しいですね。ですがどちらか片方だけという人なら結構いるんですよ。海外では、業界について詳しく、顧客への解像度が高い人を「ドメインエキスパート」と呼ぶのですが、そのような人材をアサインするのはそんなに大変ではありません。例えば、モーター業界に詳しくて事業を立ち上げられる人は少なくても、モーター業界で働いてる人は大勢いますよね。

事例として、ある会社は、発電所の開発から運営受託までを手がけていますが、自社の中に発電所に詳しい人がたくさんいるわけではありません。発電所で働いてる人たちを採用して、営業やマネジメントスキルをトレーニングした上で、アカウントマネージャーとして発電所の開発・運営受託事業を行っています。


司会:
なるほど。山中さんはどうお考えですか?


山中:
私は新規事業の立ち上げを成功させるには、執着と責任感を持てる人材をリーダーにアサインできるかが重要だと考えます。そうした人が事業のステークホルダーを握り、更に、先に述べられたようなドメインエキスパートを採用して育成していけると、事業としての成功率が各段に上がります。逆に、キーパーソンの事業への熱量が低いと相当難易度は上がりますよね。当たり前の話ではありますが、最初のチームメンバー采配は本当に重要です。


栗原:
そうですね。ただ、執着と責任感を持てと言っても、企業の中にいる社員には酷な要求だと感じます。僕はよく「成長はストレスに対する過剰補填から生まれる」という表現を使うのですが、要は筋トレと同じで、身銭を切って失敗して苦しんで死にかけるからこそ急速に学習をして成長することができる。ですが企業の中で守られた環境にいる人だとなかなかそうはなりません。私自身、前職で一社員として新規事業に携わっていたときと、自分のお金で創業して事業をやっている今とでは、今の方がはるかに学習・成長スピードが早いと感じています。


山中:
「成長はストレスに対する過剰補填から生まれる」って、良い言葉ですね!覚えて帰ります! 


司会:
ドメインエキスパートがいたことで成功した事例を他にもご存知ですか?


栗原:
厳密な意味でのドメインエキスパートではないですが、当社が過去に『僕たちのPMFの話をしようか』という連載で取材した企業様の例を2社ほど紹介します。

株式会社うるるという東証グロース市場の会社がクラウド電話代行サービスの「fondesk」を立ち上げ、約3年で3,000社ほどのサービス導入に成功しました。この事業は元々Chatwork社からクラウド電話代行サービスを受託していたことからはじまったんですね。共同の受託型の事業としてスタートし、業界や顧客ニーズを把握できていた上でサービスの自社開発に踏み切って成功されている。

またもう1つ事例で、運用型テレビCMサービスなどを提供するノバセル株式会社は、ラクスルのCMOである田部さんがテレビCMに何十億もの予算を注ぎ込んだ経験を活かして立ち上げた事業です。ラクスルでの実績が田部さんの周囲で反響を呼び、相談やコンサルの依頼が舞い込むように。自分たちの実践や相談・コンサルティングを提供する中で業界や顧客ニーズを把握した上で新規事業として成功している事例です。


山中:
ドメインエキスパートがいると顧客理解がしっかりできているし、そもそも需要があったサービスを事業として立ち上げるから成功したという事例ですね。

リサーチは「顧客理解」だけが目的ではない

司会:
続いてはリサーチをテーマに対談いただきたいと思います。新規事業立ち上げには顧客理解が大切です。理解している顧客像が実際の顧客と一致しているかを確かめるためにも、リサーチを活用すべきだと思うのですがいかがでしょう?

山中:
そうですね。どちらかというと弊社のスタンスは、いくつかある顧客像を明確にするためにリサーチを活用するといった方が近いでしょうか。というのもリサーチの目的は「顧客理解」だけではダメなんですね。顧客を理解した上で「顧客目線」に立たないと、ニーズを外した仮説で終わってしまします。例えば弊社では現在、BtoBのリサーチ支援の事業が非常に伸びていますが、これは自社での失敗が良い教訓となったからです。


栗原:
どんな失敗を経験されたのですか?


山中:
弊社はアンケートなどに回答するとポイントが貰えるサービスを提供しています。そのためポイントサイトのユーザーを調べ尽くし、理解したつもりでいました。「ポイントサイトで少額のポイントを集めようとする顧客に役職者層はいないはずだ」という仮説のもと事業を行っていたのです。

ところが蓋を開くと、実は役員レベルの方も登録して積極的に活用してくださっていました。そこでもう少し深掘りして顧客目線に立ってみたら、みなさん意外とお小遣い制で可処分所得が低く、アンケートでも何でも案内が来たら全然やるよ!というモチベーションだったんですね。そこのビジネスチャンスに気づけなかったのが、当初の失敗でした。

とはいえ顧客理解は本当に難しいものです。リサーチ支援を事業とする弊社としても、顧客目線と仮説の両方にアンテナを立てて、リサーチを通じて両者を擦り合わせていくしかないと思っています。またそうして各顧客像ごとにマッチするサービスを区切り、基準を作っていくことが、リサーチの役割なのかなと考えています。基準さえわかれば市場規模も把握しやすくなりますからね。


栗原:
なるほど。定量アンケートからデータ分析、インタビューから商談同席まで、リサーチを通じた顧客理解の方法は山ほどありますしね。ですが真に顧客を理解するには、顧客理解や顧客視点に立つ文化が社内にあるかどうかも重要だと思います。


山中:
アメリカと比べ日本企業ではそこの重要性が低いですもんね。でもどうやって?


栗原:
よく言われることですが、トップのコミットメントが重要です。事例として、ファミリーマートの元社長の澤田貴司氏の話があります。この方は300人ぐらいの加盟店オーナーとLINEで繋がっていたらしく、常に生の現場の情報を直接取っていたそうです。他にも社長が自ら、店舗を実際にまわるとか、食事会をするとかの事例があると思いますが、企業のトップが実行しているということが重要ですね。


山中:
この記事の読者はマーケターが多いと思いますが、彼らから代表に伝えてもらいましょう(笑)。


栗原:
そうですね「ファミリーマートの社長が実践していた」と伝えたら、実践していただけるかもしれません(笑)。

リサーチを通じて顧客理解を深めるには「意思」ではなく「行動」を見る

司会:
リサーチを通じて顧客を真に理解するために必要な視点とは何でしょう?

山中:
顧客理解の目的は、事業目標を成功させる意思決定をするため。そのための事実を見つけ出すためです。だからリサーチ手法は「何を判断したいか」「何を明確化したいか」といった視点から選ばなければならないし、そこで必要だと判断すれば、代表自らが現場を見るのはとても良い方法です。

実際に顧客理解が上手くいっている企業は、日々現場を見ることで、事実とその裏側にある背景を切り分けて分析しています。「このような現象が起きているのは、時代がこうでこうした欲求が人々にあるから」といった具合に、実際に起きている事実や現象と、顧客側の背景を分解して考えているんですね。だからその仮説を元に新規事業を立ち上げても外すことが少ないです。


栗原:
事実と背景を分けて考えるには、リサーチをする上でどのようなところに気をつけたら良いですか?


山中:
弊社ではリサーチを依頼された際に、「顧客の意識による回答だけで判断する設計は避けるように」とクライアントに強く伝えています。気をつけるべきは「行動」を見ることなんですよね。例えば「欲しいですか?」に対して「はい」「いいえ」と答えさせる質問ではなく、「この1か月内に同じ価値のものを自分で探したことがありますか?」「いくら費用や時間を費やしましたか?」というように「行動」や過去の「事実」を聞けば、欲しい度合いが見えてきて調査の確度が上がります。ですが、意外とみなさん、意識の確認のみで止めてしまう。


栗原:
顧客の発言を鵜呑みにしてはダメだという言い方もできますね。有名なのでご存じの方も多いかもしれませんが、ある食器メーカーが顧客理解のためにグループインタビューで主婦を集め、「どのお皿が欲しいですか?」と質問した話があります。主婦たちは「黒がやっぱりかっこいいわね」とインタビューでは誉めそやしたのですが、最後にお皿をあげますとなったら、黒を選ぶ人は誰もいなくて白いお皿をみんな持って帰ったというオチです。黒はかっこいい意識はあっても、今ある食器との相性や家族の好みを考えたら結局白を選ぶ行動になった、という話です。


山中:
面白い調査ですね(笑)。
残念ながら、実用性のないリサーチが、大企業ほど蔓延している気がします。「このフォーマットでこの項目の回答が取れていれば調査としてOK」という甘い考えで、新規事業立ち上げの意思決定をしてしまうのは本当に危険です。

私は前職からリサーチ業界にいたのですが、そこで調査をしたのにニーズのない商品を数十億投資して作ってしまい、ほとんど売り上げが上がらないという支援先が恥ずかしながらあったんですよ。失敗は成長の糧になりますが、防げになる失敗は防ぎたい。そこから、適切な調査を何とか安価で届けられないかと考え、起業した経緯があります。


栗原:
リサーチする際は慎重に動きたいところですね。

立ち上げ時のペルソナ想定は少なく

司会:
事業の立ち上げ期には、いくつかペルソナを想定し、それに対してリサーチで理解を深めていく、というやり方になると思います。
その際、何パターンぐらいのペルソナを想定して仮説を立てると良いのでしょう?


栗原:
0→1フェーズの場合は大体1~3パターンが良いかと思います。ニーズや提供できる解決策などの軸でペルソナを分類することが基本です。

1→10、10→100のフェーズではペルソナが5パターン、10パターンと増えていくことが普通ですが、新規事業の初期フェーズでは絞ったターゲットペルソナで商品開発やマーケティング活動をやっていくことが望ましいです。


山中:
そうですね。初期は顧客やユーザーの課題と顧客への提供価値の軸を絞って、本当にコアになるものを明確にし、その掛け合わせのパターンで検証していくのが良いですね。パターンが多くなりすぎて複雑化するとユーザーの課題は何か、企業が課題に対し提供できる価値は何か、そもそも顧客の特徴とは何かなどブレてしまうかと思います。事業としての初期の提供価値、中長期で目指す提供価値、それと顧客の課題のコアの黄金パターンを見つけることが立ち上げ期では不可欠だと思います。検証パターンを増やすのは、あくまでも「コアパターンを見つけるため」が良いと思います。


司会:
貴重なお話ありがとうございます。後編では、立ち上げ期に有効なマーケティング施策や、やってはいけない施策などより具体的な内容について伺います。お楽しみに!

【後編】新規事業立ち上げ期における効果的なマーケティング施策とは?

【株式会社まーけっち 代表取締役 山中 思温氏】と【株式会社才流 代表取締役社長 栗原 康太氏】が、新規事業における様々な課題をテーマに対談。後編では、新規事業の立ち上げフェーズにおいて、取り組むべきマーケティング戦略や...

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株式会社才流
代表取締役社長

栗原 康太

株式会社才流  代表取締役社長

東京大学卒業。2011年にIT系上場企業に入社し、BtoBマーケティング支援事業を立ち上げ。事業部長、経営会議メンバーを歴任。「メソッドカンパニー」をビジョンに掲げる株式会社才流を設立し、代表取締役に就任。著書に『事例で学ぶ BtoBマーケティングの戦略と実践』(すばる舎)など。カンファレンスでの登壇、主要業界紙での執筆、取材実績多数。

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株式会社まーけっち
代表取締役社長

山中 思温

株式会社まーけっち 代表取締役社長/株式会社WEIN Group 最高人材責任者

上智大学外国語学部卒。 新卒でマーケティング企業に入社し、最年少で事業部を立ち上げ、アンケートアプリの若年層国内ナンバーワンを達成。顧客リサーチの課題を痛感し、当時の貯金の1000万円をすべて投じ、“株式会社まーけっち”を創業。 大手企業・国家機関・スタートアップなど100社以上の支援を行い、講演実績も多数。2021年より、WEIN GroupのCHRO(最高人材責任者)に就任。

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