より良いプロダクトを生み出すために。マーケターが「デザイン思考」を身につけるべき理由とは?【川端康介氏×古長克彦氏 対談前編】
目次
マーケティングとデザインは切っても切り離せないものでありながら、デザイナーとのコミュニケーションが上手くいかず、マーケターの考えている戦略が上手くデザインに反映されないことが多々あります。デザインの現場において、それを解決する術とはいったい何か。自らデザインを担当し、Web制作や広告運用などのマーケティングまで手掛ける【株式会社nanocolor 代表取締役 川端康介氏】と、金融サービスを中心に個人向け・法人向けのUI/UXデザイン支援を行う【BtoBアプリデザインコンサルタント 古長克彦氏】のお二人に語っていただきます。
【後編はこちら】デザイン制作の現場で押さえるべき大事なポイント。ビジネスでも通用するデザインの考え方は?
お互いのデザイン思考を共有しつつ、顧客と目線を合わせることが大事
司会:
そもそもデザインの現場では、デザイナーとマーケターの間でどのような問題が起きているのでしょうか?
川端:
Webデザインなどのクリエイティブで、課題も仮説も目的も不明確なままデザイナーのところに下りてきて、本末転倒なデザインになってしまうことがあるように感じます。つくることだけが目的化してしまい、なぜつくるのかという本質的な視点が失われたままプロジェクトが進んでいく状況ですね。
古長:
僕はアプリデザインのUIやUXの文脈で仕事をすることが多いのですが、おっしゃった問題は同じように起きています。デザイナー自身がプロジェクトの目的やゴールを俯瞰して見られないし、仮説が正しいかどうかを分からないまま進めてしまうので、結果的に良くないデザインができあがってしまいますね。
川端:
原因のひとつは、マーケターやデザイナーという定義や領域が曖昧な職業名を主語にして、お互いのスタンスと目的を理解し合わずプロジェクトが進んでしまうことが挙げられるでしょう。そもそもデザインやマーケティングって何なのか?マーケターとデザイナーが定義を明確にした上で、目線を合わせて取り組む必要があると感じます。
古長:
そうですね。上流工程や戦略の部分を担うマーケターやコンサルタントが振り返りを行い、なぜこれをやらなければならないのかを、お客様とのコミュニケーションを通じて明確にしていかなければ、デザイナーに伝わらない状況が生まれるように思います。それをデザイナーが自分で解釈してひも解くのは、さすがにハードルが高いんですよね。
川端さんはデザイナーに転身され、現在は代表取締役兼デザイナーであるわけですが、どのようにお考えでしょうか?
川端:
デザイナーがほかの領域に踏み込んでいくことは、実はそれほど難しいわけではないと思っています。プロジェクトの目的や背景を理解するために一次情報をとりに行くコミュニケーションはどんな職業でも必要だと考えています。
マーケターはもちろん、デザイナーも「なぜこれをやるのか?」について同じテーブルにつき、同じ目線で協議するコミュニケーションがあれば、みんなが気持ちの良い仕事になると思うんですよね。
古長:
たしかにデザイナーが、制作現場からより上流のプロセスに入り込めるようなポジションになれれば、デザインにもいっそう面白さが生まれそうです。
川端:
顧客との全ての接点をきちんと想定した上で、あるべきコミュニケーションについてあらゆる可能性を考えていけるので、デザイナーも楽しいはずです。マーケターとデザイナーがともにデザイン思考をもち、顧客との目線合わせをしっかり行うことが大切といえるでしょうね。
デザイン思考とはあくまでも、「ユーザー起点」でつくるフローの中にある
司会:
そもそも、デザイン思考とはどのような考え方なのでしょうか?あらためて、お二人の解釈について教えていただけますか。
古長:
「デザイン思考」ってアカデミックな側面で正しい定義が何かを議論されがちで、いろんな解釈をされています。しかし、僕にとってデザイン思考は、人によって解釈が違うという感覚ではなくて、シンプルに“ユーザーの声を聞きましょう”ってことなんです。“ユーザーの声をどう解釈するか” が人によって違うと思っているんですね。
川端:
なるほど、よくわかります。
古長:
自分の見えている世界にとらわれるのではなく、ユーザーが本来求めているものになっているか…その視点に立って考えるのがデザイン思考の本質と理解しています。そして、それを1回かぎりで終わらせてしまうか、ちゃんとイテレーション*できるのかがたぶん肝心なんでしょうね。
*イテレーション:一連の工程を短期間で繰り返すサイクルのこと。短いスパンで手法を見直す「アジャイル開発」の一概念として知られている。
川端:
まったく同感です。差別化のために「付加価値をつけましょう」という言葉ってあるじゃないですか。価値とはブランドを通じた体験によってユーザーが決める事で、主語は顧客です。本来、売り手が主語で伝えることは便益ですよね。
デザイン思考とはあくまでも「ユーザー起点」でつくる思考フローが不可欠です。顧客が抱えるジョブは?ニーズは?そこに対してアイデアを出し、実際に試して検証していきながら、市場に求められている姿に翻訳することなんですよ。
古長:
僕もそう思います。ただ、顧客が求める付加価値をどうつけるか検討するときに、競合に追いつくための追加コンテンツという目線になりがちなんですよね。
結局、経営的な戦略やブランドの確立といった思惑からのアプローチになりがちで、ユーザー不在と感じることが少なくありません。デザイナーも、他社でこういう事例があったので…と顧客不在の独りよがりのアイデアを持っていっちゃうことがあるんです。
川端:
確かにありますね。
古長:
顧客にとっての本当の意味での付加価値なのかどうかを、つねに自問自答しないといけませんね。
川端:
たとえば、他社が「20%増量!」と目立つようにデザインしていても、そもそもユーザーは20%増量を求めているの?というところにきちんと立ち返る。競合相手が表現しているクリエイティブの中央値とユーザーのニーズを、実際に顧客とコミュニケーションを通じて知っていくことが大切でしょう。
そうした顧客を納得させる、相対的な評価を得ていくための調査は何かやっていますか?
古長:
私たちの場合、たとえば5人くらいに調査やインタビューを行い、実際にアプリを使った検証のもと、そこから導き出された仮設が合っていたかどうかを踏まえて次のアクションにつなげていくことがよくあります。
その点、Webサイトの場合だとどのような調査を行うのでしょうか?
川端:
BtoCの商材だとレビューや口コミから競合や自社のユーザーが顕在化したタイミングや便益を感じた要素を読み取ります。それをもとに、インタビューやアンケートなどを組み合わせます。
マーケターとデザイナーの定義がそろえば、デザインの解像度は格段に上がる
司会:
マーケターがデザイン思考を身につけたら、どのような効果が期待できますか?
古長:
マーケティング視点と顧客視点のバランスをキープしながら、Webサイトなどのブラッシュアップを継続してできるようになると思います。大事なのはイテレーションだと思うので、一過性の取り組みにならないようPDCAが回っていくイメージで、Cのチェックに実際のユーザーに対する評価を加えて回っていけば良いのではないかと。
川端:
その意味では、僕はマーケターとして考えているPと、デザイナーが考えているPはそもそも違うと思っていて、そこが一緒のPになることが大事だと思うんです。それがあってこそ、あとのDCAがちゃんと機能していくわけで。
つまり、マーケターとデザイナーの両者において、Pの定義を決めていく関係性がすごく育まれる気がします。顧客起点の要素が入り込むことで、きっと定義づけはしやすいと思うし、言葉の一つひとつを含めて情緒的な部分を含めて明確に定義することで、PDCAというイテレーションが成り立つと思います。
古長:
きちんと言語化して、明確にすることが大切ですよね。
川端:
そうです。たとえば、使いやすいデザインとか伝わるデザインって便利だけど思考停止になる危険な言葉です。使いやすく伝わったことをどの観点から評価するのか。その結果、ビジネスにどう紐づいているのか。顧客とビジネス課題の解像度が高まるほどデザイン解像度は上がっていくわけです。
古長:
なるほど! 全体で最適化したときにどう見えるかを振り返ることができ、意味のないものをつくっていたのでは?という気づきが得られていくということですね。それを求めている人は本当にいるの?と立ち返り、デザインに関する無用な時間やお金を費やすことが減らせるのは大きなメリットと言えるでしょうね。
【後編】デザイン制作の現場で押さえるべき大事なポイント。ビジネスでも通用するデザインの考え方は?
マーケターとデザイナーが持つべき、顧客満足をより高めるために必要な「デザイン思考」についてお話しいただいた対談前編。後編では、デザイン制作の現場において備えておきたい大事なポイントについて、【株式会社nanocolor 代表取締役 川端康介氏】と、【BtoBアプリデザインコンサルタント 古長克彦氏】に対談いただきました。
株式会社nanocolor
代表取締役
川端康介
EC事業スタートアップに参画したのち、BtoCを中心にセールス・マーケティング・ブランディングを分断させない支援会社、株式会社nanocolorを設立。「具体性」のない提案や指示を禁止することを始めとした9の行動指針をもとに「広告クリエイティブの最大化に挑戦し続ける」。Webデザイナー、マーケター、経営者という視点からnoteやSNS、イベントで発信。登壇も多数。
Twitter:@nanocolorkwbt
BtoBアプリデザインコンサルタント
古長克彦
金融系SIerにシステムエンジニアとして11年在籍。システム上流設計・業務改善コンサルティング業務に従事したのち、UXデザイナーに転向し、デザイン組織の立ち上げ、新規事業のサービスデザイン等も行う。2019年にweb制作会社ベイジに転職し、BtoBウェブアプリデザイン事業の責任者として様々な業種のUI/UXデザインコンサルティングを実施。現在は株式会社マネーフォワードに在籍、web制作会社ベイジで外部UX顧問をしながらBtoBアプリ全般のデザイン支援を幅広く行っている。
Twitter:@kocho_katsuhiko