「メールマーケティング」の陥りやすい罠と成果を出すために知っておきたい定石。【室谷 良平氏×安藤 健作氏 対談前編】
メルマガを効果的に運用しながら顧客とコミュニケーションをとり、コンバージョンへと導く「メールマーケティング」において、顧客に行動を起こしてもらうための秘訣は何でしょうか。昔からある手法だからこそ、情報量が多過ぎて重要なポイントがわかりづらくなっている感もあります。
そこで今回、デジタルマーケティングで高い実績を残す2社、【株式会社ホットリンク マーケティング本部長 室谷良平氏】と、【株式会社WACUL 執行役員CMO 安藤健作氏】のおふたりに、メルマガを上手に活用したメールマーケティングの成功の秘訣や運用方法、メールコンテンツの作成方法、陥りやすい落とし穴などについてお話しいただきました。
【後編はこちら】具体例から学ぶすぐに取り入れられるメルマガの重要ポイントとメールマーケティングの未来
メルマガはマーケティングの一環。成果につながらなければ意味はない
司会:
おふたりが考える、メールマーケティングを実践する中で担当者が陥りやすい「良くない状態」とはどういったものなのか教えてください。
室谷:
メルマガにおいて、中間のゴールであるはずのものが、最終のゴールになってしまっている状態でしょう。たとえば「開封率を上げるにはどうすれば?」といった中間のゴールを意識し過ぎてしまっていることがあります。
安藤:
まさにそれですね。メールマガジンで大事なのは、リストの質とタイミング、コンテンツの掛け算です。BtoBの場合は開封率が10~15%程度、BtoCだと10%前後。最終ゴールであるコンバージョン(CV)が置き去りにされて、開封率ばかりを気にして他の要素がおざなりになっていることがよくあります。
室谷:
ほかに、オプトアウト(購読解除)の数も過剰に気にしませんか?目先の数字に振り回され過ぎなんじゃないかと思います。
安藤:
どうしてオプトアウトされるかといえば、その情報が要らないからです。それなのに、メルマガの配信頻度が高過ぎて購読解除されたのでは?と考えてしまうこともあります。その結果、配信を今までの週2回から月2回にしてしまう。これでは本末転倒で、購読解除は減るかもしれないけれど、一方で最終的なCVも減ってしまう。オプトアウトを減らすことにとらわれて、最終ゴールであるCVまで減らしてしまう悪循環です。
室谷:
情報に興味をもっていない人を留めようとしても意味はありません。このように、開封率やオプトアウトの数値にがんじがらめになっていたら、「良くない状態」と言えるでしょう。
安藤:
結局、メルマガの目的が販促なら、成果につながらなければ何の意味もないんですよ。開封率やオプトアウトにいちいち一喜一憂していたら身がもたない(笑) なんのためにメールを出すかといったら、最終的なCVをしてもらうために行うのであって。リストをいっぱい集めても、結局CVする人はいませんでした…というのはすごく悲しい状態なんですね。
また、得られる正解像に手間をかけ過ぎている状態も良くありません。誰もじっくり読まないメルマガを、むちゃくちゃ頑張って作ってしまう。当社のアンケート結果では、半数くらいの人がメルマガ作成に2時間~5時間…それこそ半日かけている人もけっこういます。そこに時間をかけるより、配信頻度を上げたほうが絶対成果は上がると思いますよ。
室谷:
メルマガはあくまでもマーケティングの手段のひとつという意識を強くもつということでしょうね。メルマガ制作にむやみに10時間かけるよりも、プレスリリースを作る、広告のチューニングをするなどの時間に割いたほうが投資対効果は良いかもしれませんし。
安藤:
郵送DMでも良いし、SNSマーケティングの活用でも良いでしょう。広範なマーケティングへリソースを分けていったほうがリターンも大きかったりしますよね。
定石を知っていれば、誰でもある程度の成果を手にできる
司会:
シンプルな作業で、かつ効果的な成果をもたらすメルマガとは、どのような点がポイントになるのでしょうか?
安藤:
私はメルマガには、成果を出すための定石があると考えています。その定石さえ知っていれば、誰でもある程度の成果へたどり着ける。先ほど、「リストの質とタイミングとコンテンツの掛け算」と言いましたが、3つの要素それぞれに定石があります。
リストはそもそも量ではなく、質が大事。リストの中で、本当の顧客は何件いるか?1万件のリストを持っていても、中身に100人しかホンモノがいないのであれば、1,000件のリストでも500人の生きた顧客がいるほうが良いわけですから。
タイミングについては、先述したようにメルマガの開封率はおよそ10~15%で、その数字はなかなか変えられない。であれば、やるべきことはひとつで、配信頻度を上げること。月に1回よりも週に1回、週に1回よりも2回送るようにしたほうが良いわけです。
室谷:
もうひとつのメルマガ改善の要素としては…まず大事なのは、差出人名と件名でしょうか?
安藤:
おっしゃる通りです。それがメールの一覧画面の冒頭にきますから。差出し人名は、読者が明確に認知している名前にすることが重要です。たとえばDMMからのメールであれば、差出人はDMMでOK。よく、勘違いした会社が「お役立ち通信」などのタイトルをつけてしまいますが、それでは何のメールなのかが認知できず、読者はまず開きません。件名はスマホだったら15文字程度、パソコンであれば約25文字が省略されずに表示される文字数ですから、その中に伝えたい内容を簡潔にまとめます。
そしてコンテンツのレイアウト部分ですが、メールの平均的な閲覧時間って7秒以内なんですね。ですから読者が目にしたときのファーストビューの位置に、自分の知りたい情報があるかどうかが大事。加えて、そこにCTAが設置されていることが欠かせません。よく、画面の一番上がブランドロゴや大きなアイキャッチ画像で埋まっていることがありますが、それらは全部ムダですね(笑)
室谷:
押してほしいCTAではなく、ブランドロゴをクリックしてしまってブラウザが切り替わり、トップページに移ってしまって、「なんだこれ?」と離脱して終わってしまう。せっかくこだわったつもりで作り込んでも、結局そうなるのって悲しいですね。
安藤:
ホントそうですよね。頑張ってデザイナーさんに作ってもらって、キレイに仕上がっても読者が読まないのであればそのほとんどがムダであり、なおかつ効果を邪魔しているものだったりするわけです。
でもね、僕はメールマーケティングが上手くいっている企業として、ホットリンクさんのメルマガってそうだなって思います。コンテンツでファンを作るというか、文章が面白いから読みたくなるんです。
室谷:
ありがとうございます(笑)月1回の社員メルマガなど、ホットリンクでは強烈に印象づける施策をたまにやるんです。自慢みたいで恐縮ですが、うちのメルマガの記事のクオリティってしっかりしていて、情報の質も高いんです。その意味では、まずは定石を固めた上で、実験的な施策を心がけている感じです。
週2回、コラムやセミナー紹介の定常メルマガはきちんと配信しながらも、月1回のユニークな社員記事を絡めてトータルブランディングの目的でアプローチする。奇をてらった社員メルマガだけではただの遊びになってしまいますから、定石を押さえた上で行っていくことが大事だと、お話を聞いていて思いました。
安藤:
読者が結局、企業に対して求めているものとメルマガのコンテンツがずれていたら、それこそひとりよがりになってしまいますからね。
開封率やクリック率は、最終ゴールとなる目標達成のための数値に過ぎない
室谷:
メルマガって、マーケの経験の浅い人も配置されやすい業務と私は思っているんですけど、逆に初心者が陥りやすいマイナス要素も少なくないと感じているんです。
安藤:
そうですね。マーケティング施策としては参入障壁がすごく低いから。リストさえあって、あとはメール配信のツールさえあればできてしまう。そのなかでありがちなのが、とにかく説明しようと、秘伝のタレのごとく(笑)メルマガの文章が足されていくことです。
その結果、ランディングページのように長い文章になってしまって、最後の最後にCTAが置かれている。そこをクリックしたら、なんとランディングページに飛んで、また同じ内容が出てくるという…。そんなナンセンスなメルマガを見ることがあります。
室谷:
見えやすい数字…開封率やオプトアウトばかりに意識が向かってしまうと、本質を見失ったメルマガの画面になってしまうということですね。
安藤:
またよくあるのが、メルマガによる成果の目標設定をしていないという点かな。月にどれくらいの売上を上げたいのか? そう聞くと、答えられない企業さんが意外に多いんです。結局、最終ゴールの目標設定が成されていないので、開封率やクリック率などの指標を見ていくしかなくなっている。担当者もクリック数に一喜一憂しつつ、「あれ?そもそもこれって売上につながっているんだっけ?」と我に返るとか(笑)
室谷:
メールのCVポイントをどこに置くのかも、それぞれ違うでしょうし、目標設定の上での大事な要素でしょうね。
安藤:
BtoCであれば、最終CVは商品購入でしょうし、BtoBであれば資料請求など多岐にわたるCVポイントがあるでしょう。それぞれの最終目標として、具体的な数値を設定することが大事です。
そしてクリック率や開封率が何%、CV率が何%…というところで計算すると、CV数はだいたい出てきます。クリック率や開封率は、あくまでも最終ゴールの目標達成のために活用すべき数値であることを忘れないでほしいですね。
【後編】具体例から学ぶすぐに取り入れられるメルマガの重要ポイントとメールマーケティングの未来
メルマガを活用したメールマーケティング成功の秘訣や運用方法、コンテンツの作成方法、陥りやすい落とし穴などについてお話しいただいた前編。後編では、実際にいくつかの企業が実施したメルマガをサンプルに、“添削”を実施。【株式会社ホットリンク マーケティング本部長 室谷良平氏】と、【株式会社WACUL 執行役員CMO 安藤健作氏】に、GOODな事例とBADな事例のふたつに分けてポイントをうかがいました。
株式会社ホットリンク マーケティング本部長
室谷 良平
函館高専情報工学科卒。オリンパスメディカルシステムズの技術職からキャリアスタート。その後、ベンチャー数社のマーケティング職を経て、2019年にホットリンクに入社。
ホットリンクでは、BtoBマーケティング・ブランディング・広報・インサイドセールスを統括。企業のSNSマーケティングを支援すべく、SNS活用のメソッド開発やコンサルティングにも従事。著書に『1億人のSNSマーケティング』『現場のプロが教える!BtoBマーケティングの基礎知識』がある。Twitterやニュースレター(https://rmuroya.theletter.jp)でもマーケティング情報を発信中。
Twitter:@rmuroya
株式会社WACUL 執行役員CMO
安藤 健作
早稲田大学卒業後、株式会社丸井を経て、2006年に株式会社ラクスに入社。同社にてCS組織の立ち上げを行ったのち、マーケティングマネージャへ。その後、2016年よりメールマーケティングサービス「配配メール」の事業責任者となる。メールマーケティングのエバンジェリストとして活動し、多数のメディア取材を受ける。2022年「現場のプロが教える!BtoBマーケティングの基礎知識」(マイナビ出版/共著)を出版。2022年7月よりWACULにジョイン。
Twitter:@comune1128