刹那的ではなく、持続的なストックになるコンテンツを【松尾茂起氏×世一英仁氏 対談前編】

刹那的ではなく、持続的なストックになるコンテンツを【松尾茂起氏×世一英仁氏 対談前編】

「CVの向上」をミッションにする、マーケティング担当者にとって、「どんなコンテンツが集客につながるか?」は気になるところでしょう。しかし、CV向上の施策はお客様の課題により千差万別。CV向上を目指す上での心構えや、ユーザーから求められるコンテンツの内容、インサイトを引き出す秘訣などを【株式会社ウェブライダー 代表取締役 松尾茂起氏】【株式会社キュービック 代表取締役 世一英仁氏】にお話ししていただきました。

【後編はこちら】定量化だけのダークサイドに堕ちない」。企業文化の浸透は、トップやリーダーの言葉と行動。

トラフィック重視だったお客様のニーズから、CV向上に意識を変える提案

司会:
「CVを生み出すコンテンツ制作」のメソッドと具体例について教えていただけますか?

松尾:
「CVを生み出す」と一言で言っても、奥深い領域です。CVの創出を目指したいという意図でコンテンツを作り、集客をしても、コンバージョンに結び付かないケースは多くあります。たとえばブライダル業界では、ユーザーが「結婚式を即日で成約する」ことはほとんどなく、検討期間があります。さらに、エンドユーザーがネットで調べる段階で、業界一強のガリバー的サイトあるいは有名式場を指名検索するか、そもそも検索しないという状況でした。そこで始めたのが、ウエディングドレスの試着といったイベントをプロデュースし、提案すること。主にInstagramでの集客が課題解決の糸口になりましたね。

このようにメソッドといっても、お客様それぞれで抱えている課題や目標が違うので、我々も日々気づきを得ています。CVを意識して動くと、重要になるのが「インサイト」ですね。

世一:
飽くなきユーザー研究によって見つけ出した「インサイト」をもとに、プロダクトのメリットなどを第三者目線で捉え、お客様の想像を超えるような提案をしながら進めていくイメージですね。

松尾:
ユーザー目線で商品を理解すると、本質的な価値が見えてきます。マーケティング手法として「煽る」ことばかりしていると、ユーザーと商品の間にその場限りの短期的な価値しか構築できないので、LTVが下がる結果になってしまいます。長期的な価値を考えることはとても重要ですね。

世一:
目先の利益を追求してばかりでは、未来につながらないですよね。CVを取りに行くときは、逆説的ですが「CVに縛られないこと」が大事な気がします。たとえば、「転職サイトへの登録」というCVを取りにいきたいとします。ユーザーとなるのは仕事で悩んでいる方なのですが、そこにいきなり「転職しろ」と訴求するのは効果的ではありません。あくまでも「人間関係やキャリアで迷っている」ユーザーの課題に寄り添い、転職サイトへ登録してもらうためのコンテンツではなく、ユーザーの課題を解決に導くコンテンツを制作します。

紙媒体出身の編集者たちが活躍し、コンテンツ強化につながる。社内言語を共有へ

松尾:
当社では1年くらいかけて、社内でマーケティング用語の定義を洗い直しました。そこで「コンバージョン」という言葉を「お客様がなりたい姿になった結果」と定義したんです。多くのマーケティング用語は売り手目線で使われがちで、顧客に寄り添えていない。そこで、顧客に寄り添った定義を用いることが大切だと考えました。

ユーザーの課題解決や願望実現につがなるコンテンツは、結果的に検索でも上位に表示されるようになります。ユーザー目線の丁寧な説明やわかりやすい言葉の使い方で、キュービックさんのコンテンツは非常に成功されている。そうした文化がキュービックさんの社内に醸成されているんだなと感じます。

世一:
ありがとうございます(笑)。おっしゃる通り、文化は大事ですね。当社は「紙媒体の編集」の経験を積んだ方しか採用しない「エディトリアルデスク」という部署があります。Webは編集の概念が入ってきてまだ浅いので、紙媒体出身者に一日の長がありますね。当社では、コンテンツに6つの品質基準(網羅性、一貫性、助動性、信頼性、可読性、独自性)を設け、共通言語化しています。たとえば「独自性が足りない」と言えば、すぐに伝わる。そのようにして作り込んだものは、お客様のためにもなるし、検索でも上位に表示されます。

松尾:
紙媒体出身の方は、コンテンツの持続性、すなわち耐用年数を重視されている印象を受けます。やはり出版されて残り続けるという点が大きいのでしょう。もちろんWebコンテンツも残り続けますし、Webの方も持続性を重視されている方はいらっしゃいますが、紙に比べると、持続性の弱い刹那的でフロー的なコンテンツが多くなっている印象です。

世一:
マーケターの中には、「コンテンツは消費されていくもので、CVのためのツールでしかない」と考える方もいるでしょう。でも実際はそうではなく、しっかり制作して育てると、ストックされるコンテンツになるんですよね。また、コンテンツを「手段」と捉えると効率性の追求になりますが、紙媒体出身の方は「納得のいく誌面づくり」という考え方をお持ちです。モチベーションとしても「コンテンツそのものが作品」になるので、そちらの方が読者に手触り感やあたたかみがWebでも伝わると思いますね。

刹那的なCVは求めない。ひと手間かけた「ちょっとしたお節介」が、継続的な顧客とのご縁にも、検索上位にもつながる

司会:
コンテンツを制作する上で、具体的に必要なこと、特に気をつけるべきことはなんでしょうか?

松尾:
刹那的なCVではなく、エンドユーザーとお客様にベネフィットを感じてもらうことを目指すことですね。たとえば当社のオウンドメディア「素敵なギフト」では、一貫して「良いギフトを贈るためのお手伝いをしたい」という想いでコンテンツ制作をしており、アルゴリズムの動向に合わせて制作することはありません。ギフト選びをお手伝いするためには、商品の説明文に「この出産祝いを贈ると、先方の親御さんはこんな風に喜びます」といったプラスアルファの要素を加えることもあります。ギフトを贈る人、受け取る人のその後の人生も想定して「ちょっとしたお節介」を文章に乗せているんですね。「売りたい」という姿勢ではなく、エンドユーザーや読み手の望みを叶えるようなコンテンツを制作すると、結果的にCVが向上し、検索順位も上がります。

世一:
「ちょっとしたお節介」は良い言葉ですね。検索で上位に出ているサイトのコンテンツを真似るところから始める方もいるでしょうが、実は「想い」や「専門性」を持つ方の「プラスアルファ」の“ひと手間”がある方が、ユーザーに届くし、Googleも評価してくれる。コンテンツのマーケティングにたずさわっている方は、効率化や合理性を求める特性が強いので、この「ひと手間」にアンテナをあまり張っていない方が多いイメージです。

松尾:
お節介は言葉を変えると、サービス精神。相手が求めている以上の価値を提供することです。その感性は、リアルやWebでのコミュニケーションで磨かれます。たとえばリアルなコミュニケーションで少し適当な返事をしてしまうと、相手にすぐに気付かれます。Webも同様に、文章が良くても、記事に合わない適当な画像が貼ってあると、ユーザーはその適当さを見抜いてきます。

世一:
当社では、インサイトを知るために、実際にユーザーにインタビューをしたり、アンケートをとったりしています。たとえば、転職したばかりの方に、「どんなきっかけで、どんなサイトを使ったか?」などを深掘るヒアリングをするなど、ユーザーの理解につとめていますね。事業会社のマーケティングは別として、コンテンツ制作を請け負っているマーケティング会社は、お客様の商品のことを熟知しているとは言えず、むしろその会社の商品が好きなエンドユーザーの方が詳しいこともあります。そうした事実をふまえて、ユーザーと向き合う姿勢が求められるのではないでしょうか。

松尾:
当社はメディアを立ち上げるとき、座談会を催します。たとえば、「マタニティグッズ」について「このギフトは役立つ」「これは、もらっても不要なだけ」などのぶっちゃけトークをしてもらいます。本音で話してもらうための場づくりは重視していますね。

世一:
そもそも人間は、心の奥底までを言語化できていません。行動の源泉をヒアリングするとき、表面的になってしまうとインサイトを引き出せない。マーケティング的には、前向きに疑うことが大事です。たとえば、「年収が良い会社に転職した」と本人が言っていても、よくよく聞いてみると「最も年収の高い会社に転職したわけでもなかったということがあります。そうなると、年収以外に別の転職理由があるはずです。こうした情報を聞き出すのが大事ですね。

松尾:
実は当社では、「人はここに価値を感じる」という要素を抽出し、
「バリューワード」と名付けた1600のフレーズに落とし込みました。それらのフレーズはエンドユーザーのインサイトも表しています。これらのフレーズはあくまでも「当り」を付けるためのツール的なものですが、当りを付けることで、エンドユーザーが本当に求めている価値とは何か?を考えやすくなりました。
このフレーズたちを用いながら、エンドユーザーとのヒアリングに臨むこともあります。「こういう言葉を聞いてどう思いますか?」「御社商品の価値とマッチしている言葉はありますか?」などの問いを交えることで、お客さまがなかなか言葉にできない商品価値を上手く言語化できることもあります。
もちろん、言葉はあくまでもひとつのツールなので、言葉だけで表現できる価値には限界がありますが、ひとつの参考になれば幸いです。

【後編】定量化だけのダークサイドに堕ちない」。企業文化の浸透は、トップやリーダーの言葉と行動。

前編では、短期的視点での成果を意識したコンテンツはLTVを下げ、将来的な商品価値を毀損する危険性があるという考え方と、長期的視点に立って、コンテンツを丁寧に制作するからこそ生まれるベネフィットの大切さについて聞くことができました。後編では、良質なコンテンツを生み出す「文化の醸成」などについて、【株式会社キュービック 代表取締役 世一英仁氏】と【株式会社ウェブライダー 代表取締役 松尾茂起氏】に語っていただきました。

監修者画像

株式会社ウェブライダー
代表取締役

松尾 茂起

関西学院大学 経済学部を卒業後、音楽系の制作会社に勤務し、舞台音楽などの制作に携わる。2005年にフリーランスとして独立し、2010年京都にて株式会社ウェブライダーを設立。検索集客や顧客創出を軸としたWebコンテンツ制作の支援を始める。プロデュースした代表的なコンテンツは「沈黙のWebマーケティング」「沈黙のWebライティング」「大改善!劇的Webリニューアル」「素敵なギフト」「美味しいワイン」「Betters」など。沈黙シリーズは書籍化され、電子含めて21万部を超えるベストセラーに。宣伝会議「編集・ライター養成講座」に登壇中のほか、Voicyのパーソナリティとしても活動中。
Twitter:@seokyoto

監修者画像

株式会社キュービック
代表取締役社長

世一 英仁

東京大学法学部卒業後、デジタルマーケティング事業を開始。2006年に事業を法人化、「株式会社キュービック」として現在に至る。ヒト起点のマーケティング×デザインが特長。インサイトを的確に捉え、人々をよりスムーズな課題解決体験へと導く。18期目、従業員数約300人、内約半数が学生インターンという特徴的な組織となっている。OpenWork「新卒入社してよかった会社ランキング2021」において第6位を獲得。GPTW「日本における『働きがいのある会社』ランキング」では5年(2018-2022年度)連続ランクイン。2022年度は総合ランキング第3位、女性ランキング第2位、若手ランキング第1位を獲得。
Twitter:@41hide

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