「定量化だけのダークサイドに堕ちない」。企業文化の浸透は、トップやリーダーの言葉と行動。【松尾茂起氏×世一英仁氏 対談後編】

「定量化だけのダークサイドに堕ちない」。企業文化の浸透は、トップやリーダーの言葉と行動。【松尾茂起氏×世一英仁氏 対談後編】

前編では、CVを向上させるために真剣にユーザーに向き合い、長期的な目線でコンテンツを制作すること、またそのような意識を文化として醸成し、浸透する重要性について詳しく伺いました。後編では、良質なコンテンツを生み出す「組織づくり」「文化の醸成」「文化を共有できる人材の採用」について、【株式会社ウェブライダー 代表取締役 松尾茂起氏】【株式会社キュービック 代表取締役 世一英仁氏】に対談していただきました。「文化醸成への投資は、中長期でみると大きなリターンをもたらす」「採用の失敗は、育成で取り返せない」といった重みのある言葉が、印象的でした。

【前編はこちら】​​刹那的なCVは求めない。ひと手間かけた「ちょっとしたお節介」が、継続的な顧客とのご縁にも、検索上位にもつながる

成長の秘訣は「文化」の醸成。そのためには、リーダーが言語化と行動を!

司会:
デジタルメディア事業をメインとし、売上は現在約120億、3年で2倍の連続成長を遂げる株式会社キュービックですが、その秘訣を教えていただきたいです。

世一:
検索エンジンだけに向かうと、短期的に利益を出せても、長期的には難しい。だから、「ユーザーに寄り添ったコンテンツ制作が不可欠」という、企業文化が根付いていることが成長の秘訣だと思います。テクニックとしてではなく、“文化”のレベルにまで引き上げると、会社としてKPIでがんじがらめにしたり、不毛な戦略で悩みを抱えるようなことはなく、自然と良い方向に進んでいくので、成長しやすい組織になると思いますね。それができたのは、広告運用とコンテンツマーケティングの両方をやっており、ビジネスの柱が複数あったからという背景もあります。

また、社内のマーケターの知識レベルを底上げするべく独自のSEO検定をもうけています。検索エンジンの基本的なロジックを押さえつつ、アルゴリズムやGoogleのレギュレーション変更など、本質的なところ以外に振り回されることなくユーザーを中心に据えて考え、制作することが必要不可欠です。

松尾:
コンテンツマーケティングの会社で、コンテンツやユーザーを大切にする文化を守り抜く会社というのは、稀有な存在だと思います。
どのように企業文化を浸透させたんですか?

世一:
組織のトップやリーダーが文化を自覚し、言語化して行動することです。メンバーたちは、組織を率いる人間の一挙手一投足に注目し、それを手本として行動するようになる。その積み重ねが「企業文化」なんですよね。

また、過去を振り返ってみると、業務の標準化と個別の取り組みの配合割合もちょうど良かったように思います。全員が型にはまってるとイノベーションが生まれないし、全員が好き放題やっていては非効率的になる。統一のルールを要望する部分と、独自の取り組みを認める部分がそれぞれ半々ぐらいでちょうど良い。カタ化は進めつつも創造性を削らないちょうど良さを探っていくのも、うちの「企業文化」ですね。

松尾:
独自の文化を実感するタイミングはありますか?

世一:
社外の方や、新しく入社したメンバーと話しているときですね。私は自分の会社しか知らないので、相対的な評価は参考になります。「前職と違う。求めていた文化です」と聞くと、嬉しいですね。文化とは不思議なもので、ある程度定着すると、「もっと浸透させよう」としなくても、新入社員たちが徐々に同じ行動をしてくれるようになります。「文化は戦略に勝る」と言われることがありますが、文化醸成への投資は、中長期でみると大きなリターンをもたらしますよ。

組織の急拡大に向けて、言語化を徹底。的確な投資が大きなリターンに

司会:
「文化」を継承する上で、言語化や仕組み化する転機はありましたか?

世一:
社員数を50名くらいから、1年半で5倍に増やし「勝負をかけた時期」があったんです。それまでは、徐々に増加していたので、言語化しなくても文化は自然と共有されていました。ただ、急拡大の時期は、新入社員が文化を理解しないうちに、さらに新人を育成しないといけないという状況が生まれ、伝達できない状況が頻発したのです。「こんなにも伝わらないものなのか」と、驚いた記憶があります。

振り返ると、言語化されてないから当たり前のことなんですよ。そこで、行動指針の言語化と、それにあわせる形で評価制度を整え、運用を徹底することにしました。大変な思いもしましたが、チャレンジしたことで「言語化の重要性」などを体感できたので、組織というものについて深く学ぶことができた時期でした。

世一:
今は、コンテンツマーケティングのキャリアをお持ちでキュービックへの転職を考えていただける方は、「your SELECT.」や「ミズコム」といった私たちのメディアを閲覧してから応募してくれます。メディアを通じて私たちの姿勢や考え方などをご理解くださっているので、多くの言葉を並べて説明する必要がなくなりました。

ウェブライダーさんの場合、松尾さんがブランディングされているので、「松尾さんのようになりたい」と応募する人が多いのではないでしょうか?

松尾:
結構来てくださいます。ただ、応募してくださる方の中には、「なんだかすごいコンテンツを作れそうだ!」という表層的な魅力を感じて応募してきてくださる方もいて、実際の現場の仕事を見ると「ここまで細かく仕事するのか」というギャップに戸惑われる方もいるため、採用のマッチング精度を上げる必要性について日々思案しています。

世一:
「どんな人に応募してほしいのか?」は、コンテンツマーケティングそのものですよね。自社の文化や魅力を伝えるコンテンツは、オウンドメディアリクルーティングや、広報ツールとして機能します。ミッションやビジョンというのは、たとえるなら「北極星」。ただ「北極星」は昼間や雨の日には見えません。毎日着実に進むために必要なのはコンパスです。それをクレドに落とし込むと、価値判断の基準になり、育成なども含めた行動指針になります。当社はミッションやビジョンの達成、全員の成長につなげるため、4つのクレドを作り、言語化しました。育成方針も採用基準も、評価基準もそこに合わせています。

最終的に、すべては「文化」につながる。定量化と定性化のバランスを重視

司会:
経営者や最高マーケティング責任者(CMO)、もしくは双方を兼任している方に向けて「文化を醸成する以外」で、組織作りのポイントはあるのでしょうか?

世一:
実のところ、最終的にはすべて「文化」につながってきますね。生産性や効率ばかりを追求し、定量評価のみに偏るとマーケティングのダークサイドに陥ります。だから、質を担保する定性評価が大事になるのですが、マーケティング担当者は、特に事業会社ではマイノリティ的存在で、的確に評価されづらい面がある職種のように感じます。その点、キュービックの場合、私自身がマーケターなので確固たる評価軸を持っています。たとえば、「短期の収益につながるけれど、中長期的な価値を毀損する」という二律背反に陥った場合、数字目標を持っているミドルの管理職ほど、目の前で収益が上がる誘惑に抗うのは難しい。鉄の意志を持って判断することが必要で、そこを担うミドル層の育成は大きな課題だと思います。

あとは、「採用の失敗は、育成で取り返せない」と考えているので、違和感を感じた方はそもそも採用しません。というのも「ユーザーの真の課題解決とはならないようなコンテンツを良かれと思って作ってしまう人」というのが、世の中には存在するのです。メンタリティの部分はトレーニングできません。逆に、「ユーザーと徹底的に向き合う」という素養さえあれば、不器用なタイプでも採用します。その基準は、決してゆるめません。

松尾:
当社は、コンテンツをブラッシュアップする際、できるかぎり多くのメンバーが、コンテンツ改善のためのアドバイスをコメントします。ライター以外のメンバーも、ひとりの読者としてコメントし、誰かひとりでも違和感をもったのなら、その違和感とは何かをディスカッションします。その中で、各人の改善コメントの内容こそが、各人の目利き力を表していて、最終的にはメンバーの定性評価につながっているんです。

あと、先程話題にでた「採用の失敗は、育成で取り戻せない」の話に強く共感します。当社はエントリーマネジメントの一環で、入社を希望される方に「ポテンシャルテスト」という名の2時間の筆記テストを受けてもらっています。この「ポテンシャルテスト」を通して、共感力や論理的思考力の把握、さらには当社と価値観が合うかなどを見ています。このテストを始めてから、当社と価値観が合ったメンバーが入社してくれるようになり、ミスマッチが大幅に減りました。

ポテンシャルテストの内容はたとえば「ある漫画の男性キャラと、ヒロインが結婚することになったとき、ヒロインが結婚にあたって抱えているであろうモヤモヤを全て書き出してください」といったようなものから、「記事制作でトラブルが起きた際、編集者として、自分の担当ライターさんにどんなメールを送りますか?」といったものなど様々です。このテストのように、働く相手と価値観を擦り合わせることも、文化の醸成にはとても大切だと思っています。

【前編】​​刹那的なCVは求めない。ひと手間かけた「ちょっとしたお節介」が、継続的な顧客とのご縁にも、検索上位にもつながる

CVを獲得するコンテンツ制作が必要とされる中、具体的な施策に頭を抱えるマーケティング担当者や責任者、経営者は多いのではないでしょうか?今回は、そもそもの「CVとの向き合い方」から、具体的なコンテンツの制作まで、【株式会社ウェブライダー 代表取締役 松尾茂起氏】と【株式会社キュービック 代表取締役 世一英仁氏】に対談していただきました。

監修者画像

株式会社ウェブライダー
代表取締役

松尾 茂起

関西学院大学 経済学部を卒業後、音楽系の制作会社に勤務し、舞台音楽などの制作に携わる。2005年にフリーランスとして独立し、2010年京都にて株式会社ウェブライダーを設立。検索集客や顧客創出を軸としたWebコンテンツ制作の支援を始める。プロデュースした代表的なコンテンツは「沈黙のWebマーケティング」「沈黙のWebライティング」「大改善!劇的Webリニューアル」「素敵なギフト」「美味しいワイン」「Betters」など。沈黙シリーズは書籍化され、電子含めて21万部を超えるベストセラーに。宣伝会議「編集・ライター養成講座」に登壇中のほか、Voicyのパーソナリティとしても活動中。
Twitter:@seokyoto

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株式会社キュービック
代表取締役社長

世一 英仁

東京大学法学部卒業後、デジタルマーケティング事業を開始。2006年に事業を法人化、「株式会社キュービック」として現在に至る。ヒト起点のマーケティング×デザインが特長。インサイトを的確に捉え、人々をよりスムーズな課題解決体験へと導く。18期目、従業員数約300人、内約半数が学生インターンという特徴的な組織となっている。OpenWork「新卒入社してよかった会社ランキング2021」において第6位を獲得。GPTW「日本における『働きがいのある会社』ランキング」では5年(2018-2022年度)連続ランクイン。2022年度は総合ランキング第3位、女性ランキング第2位、若手ランキング第1位を獲得。
Twitter:@41hide

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